
江原河畔劇場で活動する「ひょっこりシアター」が、今年、初めて豊岡演劇祭に参加します。
そこで、豊岡演劇祭2026での上演に向けて、「ひょっこりシアターってどんな活動?」「どんなふうに作品をつくっているの?」を、あらためてご紹介する企画「もっと知りたい!ひょっこりシアター」。
vol.1では、活動の立ち上げから関わってきた村井まどかさん(写真中央)、福田倫子さん(写真右)、髙橋智子さん(写真左)の3人に、ひょっこりシアターが始まったきっかけや、4年間の活動の中で感じてきた変化、作品づくり、そして初めての豊岡演劇祭に向けた今の気持ちをお聞きしました。

※本文中の「◇」は、対談内容をもとにした補足・説明です。
【卒業した後にも、演劇を続けられる場所を】
――ひょっこりシアターは、どのような思いから始まりましたか?
村井 そうですね。思いというか、きっかけは、出石特別支援学校でワークショップをする機会があったことです。先生方から、「卒業した人たちが、余暇活動として演劇を続けられる機会ができないか」というお話をいただいて。
◇活動を始めたいという思いはあったものの、継続していくためには、スタッフの人件費など活動を支えるためのお金も必要になります。一方で、参加者が参加しやすい形にはしたい。どうすれば続けられるのかを考えていた時に、助成を活用してワークショップを行える機会が生まれ、ひょっこりシアターが動き始めました。
福田 もう村井さんの中では、「やるよ」っていう感じだったよね(笑)。
村井 でも、みんなで出石特別支援学校にワークショップに行っていたから、「こういう活動ができたらいいよね」という話はしてたよね。
福田 うんうん。
村井 そこから「じゃあ、実際にどうやってやる?」ということを、みんなで話していきました。
◇単発のワークショップだけでなく、継続して活動するのであれば、最後には作品として発表するところまでやりたい。そう考えた村井さんが声をかけたのが、演出家の舘そらみさんでした。舘さんも、立ち上げから現在まで4年間、活動に関わっています。
髙橋 実際に「やる」となった時は、「やろう、やろう!」っていう感じでした。
福田 「いいね、やろう!」って(笑)。

【決めつけず、その都度みんなで考える】
◇活動が始まってからは、毎回ワークショップの後にスタッフ同士で振り返りを行ってきました。
福田 「ここは気をつけたいね」とか、「ひょっこりシアター全体として、どうしていこうか」とか。振り返ってみると、そういうすり合わせはずっとしてきた気がします。
髙橋 参加する人によって、それぞれ違うので、「この人にはこういう対応をする」と最初から決めているわけではなくて。
活動の中で気づいたことを、その都度スタッフ同士で共有したり、必要なことを調べたりしながら、参加する人もスタッフも安心して一緒に活動できるように考えてきました。毎回少しずつ、やり方を探してきた感じです。
◇ひょっこりシアターには、単発で参加できる「体験ワークショップ」と、発表会に向けて7〜8回ほど継続して参加する「創作ワークショップ」があります。立ち上げ当初から継続して参加している人もいれば、今年になって新しく参加する人も。最初に特別支援学校の先生たちが話していた「卒業後の余暇活動」の一つとして、ひょっこりシアターへの参加が生活の一部になっている人もいます。

【4年間一緒にいるから、見えてくること】
――4年間の活動の中で、印象に残っていることはありますか?
村井 長く一緒に活動しているからこそ、「今までと少し違うな」と感じる瞬間はあります。
ある参加者が、いつもとは違う形で、自分から何かを伝えようとしているように見えた時があって。「今、チャレンジしているんだな」と感じたんです。これまで一緒にやってきて、初めて見る姿だったので、すごく印象に残っています。
江原河畔劇場が主催する別の演劇ワークショップでも、初対面の方に、自分からコミュニケーションを取っている姿を見たことがありました。あとで本人に話したら、「自分でも驚いています」と言っていて。
福田 ひょっこりシアターの中だけじゃなくて、普段の生活でも少しずつ新しいことに挑戦している人がいます。
以前は知らない人と話すことに不安があった人が、「ワークショップで少し自信がついて、実習先でも話すことができた」と教えてくれたこともありました。
「初めて映画館に行きました」とか、「新しい仕事を始めました」とか、そういうことを知らせてくれることもあって。自分の中で感じたことを、その先の行動につなげているのを見ると、嬉しいなと思います。
◇髙橋さんは、普段は苦手だと聞いていたことでも、舞台の中では平気なことがあると話します。
髙橋 「この人にはこういう対応が必要」「ここまでは難しい」と最初から決めてしまうと、見えなくなるものもあると思うんです。演劇の中では、普段とは違う一面が見えることがあって、それが面白いなと思います。

【一緒にやる中で、スタッフ側も変わっていった】
◇4年間の活動の中で変化してきたのは、参加者だけではありません。
村井 みんなが安心して参加できるようになってきたことで、私自身も、ファシリテーションの中でいろんなことを試せるようになりました。
以前は、まずアップをして、それから創作をして、という流れをある程度考えていたんですけど、今は「今日はアップをしなくてもいいかも」と、その日の様子を見ながら変えられるようになってきて。
ちょっとよく分からないことを試してみても、みんな一緒にやってみてくれる。そういうチャレンジを、こちらもできるようになった気がします。
◇ワークショップの内容は、事前にすべてを細かく決めているわけではありません。その日の様子によって、内容が変わることもあります。
福田 「今日は何しよっかな」みたいな(笑)。
髙橋 そんな感じだよね。

◇福田さんと髙橋さんは、ファシリテーターとして入りながら、創作の場面では俳優として参加者と一緒に作品をつくります。
福田 村井さんが考えた流れを、その場で初めて知ることもあります。
髙橋 知る(笑)。でも、もうずっと一緒にやっているので、「あ、今日はそういう感じなんだ」って、一緒に楽しんでいます。
福田 参加者と一緒に「ごめん、どういうこと?」って聞くこともあるし。
髙橋 私たちが聞くことで村井さんが説明して、それが参加者にも伝わる。そういうやり取りも、そのままファシリテーションの中に入っているんです。
◇村井さん自身は全体を見ながら、各グループにはファシリテーターが入り、一緒に創作を行います。
村井 大切にしているのは、ファシリテーターに入る人自身も楽しむことです。参加者を外側から支えるというより、一緒に作品をつくる人としてその場にいる、という感覚ですね。
◇その感覚は、福田さんの中でも4年間で変化してきたといいます。
福田 最初は、障害のある人たちと一緒に活動する経験がほとんどなかったので、「自分の関わり方で大丈夫なのかな」と不安もありました。
でも、実際にワークショップに入ってみると、いろんなアイデアが出てくるし、一緒にやること自体がすごく楽しかったんです。
最初の頃は、ファシリテーターとして「この人がやりたいことを、もっと分かりやすく伝えられるようにしなきゃ」と、サポートすることを強く意識していたと思います。
でも最近は、「それをやりたいなら、じゃあ私はこっちをやるね」って。自分も一人の共演者として、その役をどう楽しむかを考えるようになってきました。
そっちの方が、一緒にやっていてチームとしても楽しいんですよね。
髙橋 舘そらみさんからも、「参加者を支えることばかり考えるんじゃなくて、一緒に出演する側も、自分のやりたい表現をちゃんとやっていい」と言われています。
それぞれが本気でやることで、お互いに刺激を受けるし、そこから作品も変わっていくんだと思います。

【みんなのアイデアから、ひとつの作品へ】
◇発表会の作品は、ワークショップの中で生まれた小さな作品やアイデアをもとにつくられていきます。各チームが創作した作品を映像で舘そらみさんに送り、舘さんがその年の参加メンバーや生まれてきたアイデアを見ながら、一つの作品へと構成していきます。
髙橋 毎年、その年ならではのカラーがちゃんとできるんです。構成力が本当にすごいなと思います。
台本ができてくると、「この作品群から、こういう台詞を生み出すんだ」って、毎回驚きます。
福田 あるチームの登場人物と、別のチームの登場人物が、違う場面で出会ったりするんです。
村井 そうそう。
福田 そこが面白い。
◇そして、ひょっこりシアターの発表会には、毎年恒例の光景も。
――出演者の皆さんがサングラスをかけているのが印象に残っているんですが、あれは毎年やっているんですか?
髙橋 やってます。オープニングですね。
村井 もともとは舘さんから、「サングラスとスーツが見たい」って言われて。「でもスーツは高いから難しい」「じゃあサングラスなら100円ショップで買えるね」って(笑)。
福田 そこから毎年の定番になった。
◇舞台裏では、出演者もスタッフも一緒になって本番を進めていきます。
髙橋 私は舞台裏でナレーションをしているんですけど、出演者のみんなが覗きに来たり、ちょっかいを出しに来たりするんですよ(笑)。
「今、本番中だから!」って言いながらやってます。
福田 毎年の名物みたいになってるよね。

【保護者も、一緒につくる人に】
◇活動を支えているのは、参加者やスタッフだけではありません。昨年の発表会では、衣装の繕い物を、付き添いで来ていた保護者の皆さんにもお願いしました。
村井 以前から「何かできることがあればやりたい」と言ってくださっていたんです。
でも、私たちも、どこまでお願いしていいのか分からなかったり、発表会の内容が決まるのが直前だったりして、なかなか一緒にやれることをつくれなくて。
福田 去年は、みんなでおしゃべりしながら縫い物をして。保護者の方同士が話す時間にもなって、それもすごく良かったなと思いました。
村井 保護者の皆さんも、「自分たちもこの活動に関わりたい」と思ってくださっているんだな、と改めて感じました。すごくありがたいです。
――参加者だけでなく、保護者の皆さんも含めて、一緒に活動をつくっているんですね。
村井 うん。皆さんの力で。
髙橋 本当に、そうだと思います。
【4年目、初めて豊岡演劇祭へ】
◇4年間活動を続けてきたひょっこりシアターが、今年、初めて豊岡演劇祭に参加します。
村井 初めてです。
(拍手)
◇今回の参加は、豊岡演劇祭側から声がかかったことをきっかけに決まりました。
村井 最初に「できる?」と聞かれて、「できると思う」と答えました。それからみんなに声をかけて、「やれそう?」って聞いたら、「やる」って。
それで、正式に「やれます」とお返事しました。
◇豊岡演劇祭では、昨年の作品をベースに、昨年出演したメンバーとともに新たに作品をつくります。普段の創作では、1〜2か月ほどかけて7〜8回のワークショップを重ねますが、今回はかなり短い期間での創作になります。
村井 みんなの体力や集中力がどのくらい続くのかも、やってみないと分からないところがあります。
本人たちも体調のことを気にしているので、その日の様子を見ながら、無理のない形で進めていきたいと思っています。

――昨年の作品をベースにした「再演」ですが、やっぱり新しい作品になりそうですか?
髙橋 未知ですね。
福田 再演だからこそ、今までとは違う作り方になると思います。
村井 でも、再演と言っても、そのまま残る部分はそんなに多くない気がする。
福田 それ、新作じゃん(笑)。
村井 (笑)。結局、新しいものになる気がしています。同じ構成や台詞でも、演じる人たちが毎回同じことをするわけではないので、きっと全然違う作品になると思います。
髙橋 ワクワクと不安と、半々ですね。
【劇場の外での暮らしも、少し見える演劇祭に】
◇豊岡演劇祭の期間中には、参加者が普段働いている事業所で作られているお菓子や野菜などを、江原河畔劇場のロビーで販売する予定です。
髙橋 ひょっこりシアターで一緒にいる姿だけじゃなくて、参加者が普段どんな場所で過ごしているのか、その一端も感じてもらえる機会になったらいいなと思っています。
◇そして、今回の豊岡演劇祭をきっかけに、ひょっこりシアターそのものを知ってもらうことも、3人が楽しみにしていることの一つです。
村井 ひょっこりシアターは演劇祭だけの活動ではないので、これをきっかけに新しいメンバーも増えたらいいなと思っています。
ちょっと気になるな、という人がいたら、まずは見に来てもらえたら。
福田 そうだね。まずは見てもらって。
村井 それで、「参加してみたい」と思ってもらえたら嬉しいですね。
福田 「ゆっくり、どっぷり、ちゃっかり、ひょっこり」でお願いします(笑)。

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豊岡演劇祭2026 公式プログラム
『ひょっこりシアター』
構成・演出:舘そらみ
2026年9月26日(土)〜9月27日(日)
江原河畔劇場
https://ebara-riverside.com/play/play_11982/
