演劇人コンクール

〈演劇人コンクール〉は我が国の劇場文化と舞台芸術を担う次代の才能を発掘・支援する、演劇人のためのコンクールです。 

2000年、演劇の聖地・利賀村で、演出家を対象としたわが国初のコンクール〈利賀演出家コンクール〉として誕生。2008年から受賞対象を舞台創造を担う各部門全体に拡げ、舞台を構成するさまざまな表現に関してその力量を競い合うコンクール〈利賀演劇人コンクール〉となり、さらに2012年からは「地域を越え、国際的に活躍できる演出家の発掘と養成」を柱に、演出家の支援と顕彰とともに各部門の演劇人への奨励賞を設け、継続支援のプログラムを充実させてきました。

20年を一つの区切りに、2020年からは新たに豊岡の地で引き継ぎ、コロナ禍の中でも継続してきました。

その後、コンクールに求められる役割の変化を踏まえ、2024年度より「新しいコンクールのあり方」を検討した上で、主に若手(原則35歳以下)を対象とし、審査員の一部に「公募審査員」を導入する新たな形式で実施しています。

演劇人コンクール2025

審査結果

最優秀演出家賞

  該当者無し

優秀演出家賞
(五十音順)(副賞:20万円)

 新垣七奈『受付』
 結城真央『DOLL』

奨励賞(副賞:10万円)

 田中陽太『DOLL』

観客賞
(副賞:コウノトリ育むお米20kg)

 田中陽太『DOLL』

上演審査総評

  ▶︎「審査と全体を通じて」平田オリザ

 一審査員という立場と、審査委員長という立場、そしてコンクールの責任者としての立場を少し混同させながら本稿を進めたいと思う。

 本年は、ここ数年に比べると突出した演出家や団体がなく、審査会の意見も大きく分かれた。逆に言えば、それぞれの上演が一定水準をクリアしていて、おそらく観客の皆さんには十分に楽しんでいただけたコンクールになったのではないか。

 もしも、このコンクールが高校演劇のように無前提に上演作品の面白さや完成度を問う形式であったなら、私はもしかすると、河井朗さん演出の『三月の5日間』を最優秀に選んだかもしれない。上演は確かに、掛け値なしに面白かったのだが、その成功の多くの部分は戯曲そのものの力によっていたとも感じた。これは審査員のほぼ共通の感想だった。その重荷は、課題戯曲の中からこの作品を選んだ段階で河井さん自身も強く自覚はしていたはずで、しかし、そのハンデを乗り越えた上演になっているとは思えなかった。特に戯曲の持つ力に対して、演出が俳優をしっかりコントロールできていない印象がある。とりあえず話すだけでも面白い台詞を、ではどのように表出させるかという点で、詰めが甘いように感じた。

 審査の過程では、同時代性や審査員の年代(世代)のことも話題となった。特に『DOLL』については、小劇場ブームの中で演劇活動を始めた私や松田さんと、他の審査員では受け止め方が大きく違ったのだろう。三島や別役ならば相対化できる事柄も、中途半端な同時代性が審査に微妙に反映する結果となった。

 『DOLL』の上演は、二団体とも俳優の力が素晴らしく、舞台はいずれも魅力的だった。 田中陽太さんの『DOLL』は、特に集団性を強く感じさせ、演出のコンセプトの具現化という意味では群を抜いていた。しかし、この作品をいま上演するための戯曲に対する批評性の点では疑問が残り、それは多くの審査員が共有するところだったと思う。

 一方、結城真生さんの『DOLL』は、本作を現代の観客に届ける視点は徹底していたように思う。空間構成にも目を見張るものがあった。ただ残念ながら、大人が女子高校生を演じるという手続きについては、少し無自覚なように見えてしまった。

 いずれにしても、一九八〇年代に、この作品が多くの人に共感されたこと。あるいは逆に如月小春の作品としては転換点の戯曲だったことなどを踏まえ、そことどのように距離を置くかは(あるいは置かないのか)はとても難しい問題だと感じた。主催者としては課題戯曲の選定について、今後も考えていきたい。

  本当に偶然なのだが、私はコンクールの一ヶ月ほど前に、大御所の演出、名だたる俳優の出演で別役実の『受付』を見ていた。その上演はエンタテイメントとして優れたものであり、この戯曲の持つ力をまざまざと見せつけるものでもあった。それと比べるわけではないが、新垣七奈さんの『受付』は、自身の立てたコンセプトに頼り過ぎたのか、あるいは途中から、そのコンセプトに迷いが生じたのか、戯曲の言葉との向き合い方が弱いように感じた。豊岡演劇祭で見せていただいたオリジナル作品の方は、もっとのびのびとしていた感覚があり物足りなさが残った。ただ、そうであっても、自分も分からない事柄に真摯に立ち向かっていく態度は多くの審査員の共感を得たし、私もそのように思った。

 『弱法師』を観るとき、いや近代能楽集のいずれの作品を観るときにも、戦争との距離の取り方を考えてしまう。清水ひなたさん演出の『弱法師』が、そこに無自覚であったとは思わないけれど、少なくとも斬新なものは感じられなかった。冒頭の無言の場面の繊細さが優れていた分、発話が始まってからの台詞への向き合い方が雑に見えてしまうのは残念な逆効果だった。

 戦争や時代との距離感は、今回、別役作品、そして『DOLL』『三月の5日間』と上演が並んだことで一層鮮明になった。講評の席でも戦争への距離の「遠さ」が話題となった。

 だがしかし、と考えるのだ。三島にとっても戦争は遠かったのではないか。もちろん別役にとっても。これは、昨今話題となる「当事者」の問題とも関連する。特に課題戯曲に取り組むコンクールという形式では、作品はいつも「遠い」。そのことを、観客とも審査員とも、ともに考え、感じうる舞台を観たいと願う。

 *その他の審査員・公募審査員による総評は「演劇人コンクール2025 記録誌」に掲載しております。

審査員

  平田オリザ

   劇作家・演出家/青年団主宰
   江原河畔劇場館長

  松田正隆

   劇作家・演出家 

  川崎陽子

   KYOTO EXPERIMENT
   共同アーティスティック・ディレクター

  伊藤全記

   演出家 *公募審査員

  高橋かおり

   社会学者 *公募審査員

  松﨑 晃

   高等学校教諭・演劇部顧問 *公募審査員

審査
書類審査(第一次審査)

 応募者全員について、書類、映像等で審査 
 時期:2025年9月

上演審査(第二次審査)

 江原河畔劇場での上演を審査 
 期間:2025年12月20日(土)・21日(日)

課題戯曲

  『受付』

  別役 実

  『弱法師』

  三島由紀夫

  『バーサよりよろしく』

  テネシー・ウィリアムズ

  『三月の5日間』

  岡田利規

  『DOLL』

  如月小春

演劇人コンクール2025 上演審査/舞台写真

『DOLL』

作:如月小春

演出:田中陽太(ベイビー、ラン|大阪)

■出演

栗原優奈
(劇団アンゴラ・ステーキ)
熊谷帆夏(劇団アンゴラ・ステーキ)
榊原杏梨(劇団あんり!)
七面鳥子
田中陽太(ベイビー、ラン)

■スタッフ

演出助手:青長侑希
照明:門志亜紀(CLOUD9)
音響:林 充希(劇団激男)
美術:田中陽太
映像オペ:青長侑希

『受付』

作:別役 実

演出:新垣七奈(演劇ユニット多々ら|沖縄)

■出演

上地広季

岩田勇人

■スタッフ

照明:福島ブランドン一嘉

制作:山本舞子

『三月の5日間』

作:岡田利規

演出:河井 朗(ルサンチカ|東京)

■出演

伊藤 拓

億なつき

古賀友樹

西山真来

■スタッフ

構成・演出・美術:河井 朗

構成・ドラマトゥルク・衣装:蒼乃まを

記録:manami tanaka

協力:櫻内憧海

『DOLL』

作:如月小春

演出:結城真央(あまい洋々|東京)

■出演

松村ひらり

谷川清夏(1999 会)

百音(マシュマロ・ウェーブ)

結城真央(あまい洋々)

夏アンナ

松﨑義邦(東京デスロック)

新垣亘平 

緒方壮哉(声の出演)

■スタッフ

照明:木村奏太

音楽・音響:ruki kojima

衣装:伽藍(ラブ・ワールド)
   三上璃桜
   石原一花

『弱法師』

作:三島由紀夫

演出:清水ひなた(creationそらあいだ/そらあいだu|東京・埼玉)

■出演

小野塚咲良

佐藤 眞

田中孝史

槻舘海斗

中村涼花

原田航輝(以上、そらあいだu)

初兎遥音

■スタッフ

舞台美術:田中孝史(そらあいだu)

衣装:そらあいだu

照明協力:中根佑希海

照明PA:福間 歩