
江原河畔劇場で活動する「ひょっこりシアター」が、今年、初めて豊岡演劇祭に参加します。
そこで、豊岡演劇祭2026での上演に向けて、「ひょっこりシアターってどんな活動?」「どんなふうに作品をつくっているの?」を、あらためてご紹介する企画「もっと知りたい!ひょっこりシアター」。
vol.4では、演出の舘そらみさん、ファシリテーターの村井まどかさん、制作の金澤昭さん、鐘築夏海さんの4人にお話を伺いました。

前編では、これまでの作品をもとにした今回の創作や、本番まで変わり続ける作品づくり、初めて豊岡演劇祭に参加することへの思い、そして公演のまわりにある、ひょっこりシアターならではのことについてお聞きします。
【「噛めば噛むほど味が出る」作品を、もう一度】
――これまでの創作の積み重ねがある中で、今回はどのように作品が立ち上がっていくのでしょうか。
舘 今回の豊岡演劇祭での作品は、去年の作品と、実は1年目の作品を合体しようとしています。
今のメンバーにとっては、やっぱり去年の作品が一番新しくて、いろいろ覚えていることも多いので、去年の作品をもとにしつつ。
1年目は、「初めまして、ひょっこりシアターです」みたいなコンセプトで作っていたんですね。2年目以降は、「お待たせしました。ひょっこりシアターです」「皆さんご存知の」みたいな(笑)。噛めば噛むほど味が出る、みたいなことをやってきました。
1年目は、初めて噛んだ時の味を大事に作っていたところもあるので、今回は演劇祭ということで、「初めまして、ひょっこりシアターです」という1年目の作品と、最新のものを合体させるような感じです。
――制作のお二人も、1年目から関わっていたんですか?
金澤 僕は去年が初めてですかね。江原河畔劇場では、ひょっこりシアター以外にも本当にいろいろな事業をやっていて。劇場でやっている事業全部に「参加したい!」という気持ちがあるのですが、なかなか参加できなくて。
ひょっこりシアターの一番最初の立ち上げには関われなかったんですけど、「これは絶対見てみたい」と思って、参加させてもらったのが最初ですね。
鐘築 私は1年目は本当にほとんど関わりがなくて。初めてひょっこりシアターを見せてもらった時は、私自身も「初めまして」という感じでした。なので、2年目から制作……いや、2年目はアシスタントかな?
村井 がっつり一緒にやってたもんね。
――出演もしていたんですか?
鐘築 出ていました(笑)。
村井 ハンガーを振り回していたよね?魔法使いで、魔法を使ってたよね。
鐘築 そうでしたね。
――1年目の作品と去年の作品を組み合わせるということは、ほぼ新作ということですね。
舘 そう。かなり、ほぼ新作。

【その時の「やりたい」から、作品が変わっていく】
――今回の公演では、1年目と去年の作品が素材になるということですが、そこからどんなストーリーになっていくのでしょうか。
舘 いつもそうなんですけど、始まる前は「こういう素材で、なんとなくこういうふうにしよう」と考えているんです。
でも、そんなにたくさん稽古があるわけでもないのに、実際に稽古をすると、それを全部やめて新しくなったりする(笑)。
――先日、アシスタントやサポートメンバーのみなさんにもお話を聞いたんですが、最初に考えていたものから、稽古や本番に向かう中で全然違うものになっていく、という話が出ていました。
舘 そうそう。そこは、ほかの現場とはちょっと違う気がします。
最初に設計図を描いて、それに基づいて、そこに向かって作っていく現場もあると思うんですけど、ひょっこりシアターでは、こちらが予測していても、今のみんなの状況や、最近のブームが全然違ったりする。
だから、こちらから押し付けるよりも、「今はそれがブームなんだ。じゃあ、それをやろうよ」と作っていった方が、全員が輝いて、私たちも輝ける場所になるのかな、という感じで。
そういう作り方をしているから、スタッフさんは大変だよね(笑)。
村井 大変そうだよね(笑)。
金澤 でも、それを一緒に面白がれるメンバーなのが、見ていてすごくいいチームだなと思います。
それに、その「やりたい」が、会うたびにちゃんと更新されていくんですよね。これまでやってきたものももちろんあるけど、「今のやりたいことは、こっちになったんだ」って。
舘 去年、歌おうと言っても絶対に歌わなかった子が、先週、社員旅行でカラオケに行ったらしくて。昨日の創作ワークショップでは、自分から歌ってたから。
村井 また去年とも違う。昨日、久しぶりにみんなに会ったら、みんなそれぞれ変わってた。
舘 みんな、なんていうか、ニッチなところを突く芸人みたいになっていて(笑)。
1年目、2年目くらいから、ここが「安心して何をやってもいい場所」みたいになってきて。最近は、本当に思い切ったことをやっても全然いい場所、みたいに変わってきています。
これまでにはなかったような「やりたいこと」が出てくるようになってきた気がします。
――舘さんと村井さんは創作の中に入って見ている立場だと思うんですが、少し外側から見ているお二人には、その創作過程はどんなふうに見えていますか?
鐘築 私が結構衝撃を受けたのは、ゲネと本番も全然違うことです。
ゲネでも組み立てた順番でやってはいるんですけど、本番になると、みんなの熱量も全然変わってくる。本番を見て、「みんな本当にすごいな」と思いました。
金澤 ひょっこりシアターのメンバーは、それぞれの生活がある中で定期的に集まって、作品を作っています。
本番に向けて逆算して作るというより、小屋入りしてからも普段の活動とあまり変わらなくて。その時その時で出てくる「こうしたら面白いんじゃない」というアイデアや感覚を、ゲネの後まで取り入れながら本番に向かっていく。
テクニカルはきっかけなどがあるので大変なんですけど、そこも含めて「じゃあ、こうしよう」「ああしよう」と一緒に考えられる。そこが面白いなと思いますね。
――Webで、今回の作品が「あの再現不可能なオムニバス」と紹介されているのを見たんですが。今回も1日目と2日目では、違うものになりそうですね。
舘 雰囲気とか、全然違うと思います。
村井 全然違うと思う。
鐘築 絶対2回見てほしい。
金澤 確かに。
舘 1回目のひょっこりシアターと、2回目のひょっこりシアターは、上演時間が5分、10分違っても責めないで(笑)。

【「演劇人魂」と、いつも通りでいること】
――これまでは毎年1回だけの本番でしたが、今回は初めての2回公演になりますね。
村井 そこは結構、「(2回公演)できるかな?」という話をしました。
ゲネと本番が本当に違うというのも、ゲネの段階でもまだいろいろ作っているから、というのはあるんですけど。2回やるとなった時に、どういうモチベーションでいけるのかな、というのはありますね。
舘 これまでは1回の本番で、「うえーい!」って、そこで浄化されるような感じがあったので(笑)。今回は2回あると、どうなるのかな。
金澤 これまでは、ひょっこりシアターとして通年で活動して、発表会に向けて創作して、そこで発表して「楽しかったね」となる形でした。
今回は、2回公演という形で作品として観てもらうこと自体が、僕たち制作やテクニカル、アシスタントのメンバーにとっても初めての試みです。
毎年、発表会で生まれる作品が本当に面白いので、やっぱり「ひょっこりシアターに出会ってほしい」という気持ちはすごくあります。
果たして2回公演がどういう感じになるのか。ドキドキですね。
舘 演劇祭での私たちのチャレンジは、どれだけいつも通りやれるか、だと思っています。

本番まで変わり続けるようになったのも、最初から自然にそうなったわけではなくて。1年目、2年目の頃に、「そうしようね」と話してきたことなんです。
1年目くらいの時は、参加者はそんなに気負っていなくても、私たちの方が「もうすぐ本番だ」「劇場に入った」「本番まであと何日だ」「これくらいしっかりしなきゃ」と、長年培った“演劇人魂”みたいなものが発動しちゃって(笑)。
演出が向かうところを指し示して、みんなで最短距離でそこに向かうような、普段の演劇の役割分担みたいなものが出てきてしまったことがあったんです。
参加者にもその空気が伝染して、「あれ、ちょっとピリッとしてるぞ」みたいになって。「セリフ通りに言ってみよう」みたいな方に行きかけた。
1年目の、ほんの数時間ですけどね(笑)。「これは違う、違う」となって。
だから、私たちが長年培った“演劇人魂”をとにかく捨てて、最後まで楽しむ。そして、参加者も含めた「私たち」の時間であることを、ちゃんと大事にしようね、と1年目から話してきました。
今でも本番前になると、ちょっとスイッチが入りそうになるので、「入れないよ、入れないよ」と話しています。今回は演劇祭なので、より一層入りがちですから(笑)。
本番直前まで、みんなでしりとりをして遊んでいられるような空気をどれだけつくれるか。それが今回のチャレンジかなと思っています。

【「発表会」から「公演」へ。初めての豊岡演劇祭】
――今回初めて豊岡演劇祭で上演することについて、みなさんは今、どんなことを感じていますか?
村井 まず、ひょっこりシアターが豊岡演劇祭というフェスティバルの中に入れることが、嬉しいです。
いろんな人に観に来てもらえるチャンスでもあるので、そこはすごく楽しみですね。
参加者のみんなに、「初めて演劇祭に呼ばれてるけど、どうする?」と聞いた時に、みんな「やる」と言ってくれて。アーティストパスがもらえて、「あなたたちはアーティストですよ」と言われることにも、とても喜びを感じていて。
これまでの「発表会」から「公演」として演劇祭に参加することが、みんなにとってすごく嬉しいことなんだと感じられたのも、良かったなと思っています。
――金澤さんはどうですか?
金澤 以前、たじま児童劇団が豊岡演劇祭に参加した時も、メンバーたちは「演劇祭にアーティストとして参加するんだ」ということを、とても楽しんでいました。
今回も話を聞いていて、ひょっこりシアターのみんながすごく期待して、ワクワクしているんだなと。
制作としては、去年の発表会を観て、こんなに面白いひょっこりシアターがあるなら、たくさんの人に観てもらいたくなるんですよ。
今まで出会ったことのない人とひょっこりシアターが出会うことにワクワクしています。一方で、「演劇祭だから何か特別なことをする」というより、できるだけ普段通りの魅力を届けられたらいいのかなと思っています。
――鐘築さんはどうですか?
鐘築 私は、ひょっこりシアターの活動も、みんなも、本当に大好きで。私にとっても、すごく居心地のいい場所なんです。
私もたじま児童劇団を担当しているんですけど、以前、シニアクラスが豊岡演劇祭に呼ばれた時に、「ひょっこりシアターも、いつか呼ばれるかな」と考えたことがあったんです。
それが、こんなに早く呼んでもらえて。びっくりしたのと、ひょっこりシアターが外からも受け止めてもらえたことが、すごく嬉しかったです。
ステージ数をどうするかというところから、いろいろ考えてきましたけど、何より、ひょっこりシアターのみんなが気持ちよく参加できて、いい思い出になる形で演劇祭に臨めたらいいなと思っています。
豊岡演劇祭に呼んでもらえたことを、本当にありがたく感じています。

【公演のまわりにある、ひょっこりシアターならではのこと】
――ステージ数をどうするかという話もありましたが、ひょっこりシアターだからこそやっている制作の業務や、ひょっこりシアターならではのものはありますか?
舘 めっちゃあるよね?
金澤 いや、でも一方で、変わらないところもあると思います。今回、公式プログラムに呼んでいただいて、ひょっこりシアターを説明する文章をどうするか、という話し合いをしました。
ひょっこりシアターの魅力や、僕たちが面白いと思っているものをどう伝えるか。「あれでもない、これでもない」と考えるのは、いつもやっていることでもあるんですよね。
それから、どうしたらお客さんにも安心して観てもらえるのか。本番当日のことを考えながら事前準備を進めるという意味では、大きく変わらないところもあると思います。
――江原河畔劇場では、公演にあわせた企画もありますよね。vol.1のインタビューでは、発表会の際に飲食店などの出店もあるというお話がありましたが、これまでも行っているんですか?
鐘築 やっています。
舘 去年からだよね。
鐘築 去年は、参加者が普段通っている事業所の方に出店してもらって。
――出店してくださっているのも、参加者と関わりのある方々なんですね。
村井 普段、彼ら彼女たちは、お菓子を作ったり、焼き芋を作ったりして、それを販売する作業をしているんです。それを「じゃあ、実際ここで売ろう」と言って、出店してもらっています。
ドーナツワークスっていうところの焼き芋は、すごく美味しい。
――焼き芋は、すぐ売り切れるとお聞きしました。
村井 だから、ひょっこりシアターを観に来れば買えます!
舘 そうです、そうです(笑)。
鐘築 ほかには、プロジェクトプラスのポップコーンと綿菓子も出してくださいます。「夢の国の匂いだ」って去年言ってたと思います。
舘 すごい匂いになるね。綿菓子と焼き芋とポップコーン(笑)。
◇参加者が普段通っている事業所も関わりながら、劇場での一日がつくられていくひょっこりシアター。後編では、普段の活動の中で育まれてきた関係や、本番に向けた創作について、さらにお話を伺います。

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豊岡演劇祭2026 公式プログラム
『ひょっこりシアター』
構成・演出:舘そらみ
2026年9月26日(土)〜9月27日(日)
江原河畔劇場
